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No.5 蓄熱槽の変遷とメンテナンス上の注意点について

役に立つ「社長の現場レポート」

某施設では築22年目の改修工事に合わせて蓄熱槽(冷温水槽)の清掃、点検を実施した。
清掃の結果、槽内各所でライニング材が爆裂し、クラックが発生していた。
ライニング材は槽内RC面にウレタンを平均30mm吹き付け、その上にJWWA認定のエポキシ樹脂を塗布する工夫が取られていた。このエポキシ樹脂は主に水道用として利用されているが耐熱性は最大でも50度前後となっている。
某施設での蓄熱槽温水の温度帯は60度で、この温度帯で使用し続けると、エポキシ樹脂が軟化し風船状に膨らんだり、クラックが発生したりする。
このエポキシ樹脂を採用した背景として、竣工当時は60度で使用できる耐熱樹脂、ライニング材は一般的に普及していなかったものと想定させる。

建物の躯体を利用した開放型蓄熱槽で槽内をライニングした槽を弊社でもときどき清掃するが状況はどれも同じような状態である。

ライニングした蓄熱槽の特徴

 1.冷水槽と温水層がそれぞれ独立した蓄熱槽
    冷水槽はクラックや風船状の膨張 ・・・・・・・・・・ ほとんど無し
    温水槽        〃         ・・・・・・・・・・ 有り
 2.冷温水槽(冷水・温水切替) 〃   ・・・・・・・・・・ 有り

明らかにライニング材は温度の影響を受けている。

蓄熱槽清掃前
蓄熱槽清掃後
壁面に発生した爆裂箇所は槽全体に及んでいる

(現状の対策)

  1. 部分補修
    爆裂したクラック周辺部をスクレーパー等でそぎ取り、十分乾燥し、再度ウレタン・耐熱ライニング材で修復する。しかしながら、ウレタンは劣化により含水しているので、養生に手間と時間が掛る。
    さらには含水状態によってはかなりの部分、ライニング材の剥離除去が必要になる。
    従って、全面補修に近くなり、部分補修では対応が難しく、現実的な対策とは言い難い。
  2. 全面修理
    槽内のライニング材を全て除去し、再度耐熱のライニング材を塗布する。但し、工事には3か月程度必要となる。時間的に余裕がなく、改修工事期間内での全面修理が困難である場合には
    とりあえず現状のまま、水を充水して再使用するしかないのだが、時間を掛けて現状に即した対応を検討していかなければならない。懸案事項が継続していくことになる。

22年前の某施設竣工時ころから、蓄熱槽を設置する場合ライニング材を塗布するのが一般化してきた。
主な理由として、それまでの蓄熱槽水は、蓄熱槽の表面からモルタルのアクが溶出し、水の入れ替えがなければ高pHの水質になってしまうからである。年に1回程度定期的に清掃を実施していれば比較的pHの上昇は抑えられる。しかしながら、蓄熱槽の容量が大きくなってくると、簡単に清掃することが困難になる。
その結果、硬度成分が経時的に減少する。本来pHが高い水質では腐食性が低いと考えられるが本質は全く逆で、高pHで硬度成分が減少すると軟水になり、緩衝性が低下しpHのバラツキが発生し腐食性が高まる。
また、開放型蓄熱槽はもともと最大の腐食因子である溶存酸素が常に補充される構造である。
これらの腐食因子が配管設備に大きく影響し、蓄熱槽を設置した施設では何らかの対策を施さなければ早くて数年、長くとも7~8年で孔食が発生し、配管や空調機コイルから、腐食による漏水事故が多発する事例が報告されている。

前述の施設は竣工当時バブル景気に沸き、急速に冷房などの電力需要が増大した時期である。
電力会社で日中のピークカットを推し進めるため、余剰な夜間電力の解消を目的としたエネルギー政策変換の必要に迫られていた。
それまで腐食事故が多く、採用に慎重だった建設業界、設備学会、ビルオーナーたちがコスト的に有利な蓄熱槽に注目し始めた。
そして蓄熱槽の欠点を補う方法として、ライニングした蓄熱槽が普及した経緯がある。

某施設の場合、防錆処理としてビー玉状の防錆剤「シリホス」を使用していた。シリホスは給水用には実績があり、効果が期待できる防錆剤であるが、開放型蓄熱槽に使用していた事例は弊社では初めて遭遇した。配管のサンプリング調査でも、水質分析においても、開放型蓄熱槽を利用した空調システムにもかかわらず、当初想定したほど大きな腐食傾向は見られなかった。
サンプリング調査では管内壁にカルシウム系の保護被膜が形成されていたことが判明している。
しかしながら、この防錆剤を空調システムに採用すると、熱交換を行う空調機のチューブ内には同じような保護被膜が生成され、熱交換効率の低下を招き、省エネ効果を低減させてしまう要素を含んでいる。

(昨今の蓄熱槽を設置している施設の防食対策)

省エネ、節水、CO2削減等、建築物に対し社会的要求が増している現在において、蓄熱槽の重要性が高まっている。現在、設計・各ゼネコン・設備業者等が打ち出している対策は前述槽内のライニングの他に次のようなものがある。

  1. 材質面からの対策
    蓄熱槽内の配管類は全てSUS管を使用する。但し、全ての配管設備をSUSにするとコスト面の制約を受けるため、槽外はSGP(白)を使用する。
    この場合、同一系内に異なった金属を接続すると、異種金属接触による電食を引き起こすので、必ず絶縁ゾーンを設ける。
  2. 構造面からの対策
    現在最も多く利用されているのが蓄熱槽水と負荷二次水を熱交換器(プレート型)で縁切り、蓄熱槽水を負荷二次水として使用しないシステムである。
    負荷二次水は密閉型になり、腐食性は減少する。
    熱交換機を設置すると熱移動で約1.5~2.0度の熱ロスが発生するので断熱性の高い保温材を使用する。特に冷水の場合は冷房時に影響が出やすい。
    弊社では築20年を経過した密閉型冷温水管(SGP白)をリニューアルした際の配管のサンプリング調査をときどき行うが、更に10年以上使用可能というデータが得られている。
    水の入れ替えがほとんどない密閉型冷温水管は水質、配管材の選定が大きな要素を持つ。
    そして適切なメンテナンスを実施していれば法定耐用年数の倍以上の使用が可能と考えられる。
  3. 水質面からの対策
    開放型蓄熱槽の場合はどうしても溶存酸素の影響を受ける。溶存酸素は言うまでもなく腐食因子であるが、蓄熱槽方式の最大の問題点になっている。
    溶存酸素の取り込みを抑える方法として考え出されたのが、蓄熱槽の喫水面にプレート状のボールを浮かべるというものである。某水処理メーカーが考案、発売しているが、完全に溶存酸素を減らすことは難しく、普及するまでには至っていない。
  4. システムの変更
    冷水負荷が大きい施設では、ブラインを使った氷蓄熱槽が普及している。本格的な普及にまでは至っていない。弊社で関与した新築物件では「バックアップ」機能として採用されている例が多い。
  5. 蓄熱槽は冷水槽専用とし、暖房負荷に使用する熱源はエコキュートなど他の方法を使用するシステムと組み合わせる。

東日本大震災以降、消費電力が逼迫し、節電、省エネ、ソーラー発電などが叫ばれているなか改めて蓄熱槽のメリット・デメリットを含め運用を見直す時期に来ている。
以上、メンテナンス業者から見た蓄熱槽の変遷と注意すべき点を述べてきたが、建物の躯体を利用した開放型蓄熱槽を採用するにあたって、参考にしていただけたら幸いである。

当社では蓄熱槽の清掃、運用上のご相談も承っております