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コラム

No.4 最近の衛生設備について

役に立つ「社長の現場レポート」

ビルにおける最も基本的で必要不可欠な設備は給・排水、衛生設備である。
特に昨今の給水設備は、利便性、快適性を追求するあまり、「シンプル・イズ・ザ・ベスト」という大原則が失われている施設が多いのが目に付く。給水栓、例えば洗面器の水洗は必ずと言ってよいほど光電センサーが設置されている。手をかざすと一定の時間水が出る、例の自動水栓である。設置する大きな理由のひとつとして、「流しっぱなしにされると水がもったいない」からだそうだ。まさに利便性、快適性を追求した商品である。確かに蛇口を開ける手間はなくなる。
確かに便利かもしれない。しかし、ただそれだけのためにコスト増となるような施設が果たして実用的な設備なのか?

給水設備、とりわけ配管に何か事があると、その対応が非常に困難な場合がある。当社で年1回受水槽の定期清掃を実施している現場がある。その現場のトイレには自動水栓が設置されているが、これが清掃後のトラブルを引き起こしている。給水管の管端処理を怠った施工不良により、清掃後加圧給水ポンプを運転し、通水すると必ず錆による赤水が発生し、給水栓に設置されているストレーナが目詰まりを引き起こしてしまう。ストレーナを取り出すにも場所が悪く、台数も20台以上設置されているので、水槽の清掃時間よりストレーナの掃除の方が多くの時間を費やさざるを得ない。いろいろ対策を考えてみたが、未だに妙案は浮かばない。

衛生設備はその名の通り「命(生)を守る(衛)」設備のことであり、安心・安全を第一義に考えるべきことである。給水設備の場合、受水槽を設置した簡易専用水道が多く、未だに汚染事故も少なくないので、メンテナンスが欠かせない。特に小規模簡易専用水道の場合、管理が不十分なことが多く、汚染事故は後を絶たない。対策として、水道事業者は受水槽の設置が不要な増圧ポンプ方式の採用や、水圧を高くし、直結方式にするなどの対策を行ってきている。
貸しビル業者の場合、テナント対策として給水設備は「安心・安全」から「利便性・快適性」を付加した機能性を追求するようになっている。
給水設備も進化してきている。少量のお湯で事足りる洗面器や流しの場合、台の下に小型の電気給湯器(数リットルのタンク)を設置している。この電気給湯器の普及に伴い、セントラル給湯から個別給湯にシフトしている。個別給湯システムはエコ給湯の代名詞となっている。

数年前、ガス給湯器による一酸化炭素中毒事故がクローズアップされ、空気でお湯を作るヒートポンプは「エコキュート」と呼ばれ、新しい給湯システムとして普及し始めている。
この給湯システムはセントラル給湯システムの復活でもある。ただこのシステムは殆ど使用されない給湯設備と、不必要と思われるような数トンもある大きな貯湯タンクが設置されている施設も結構多い。そのため、お湯が滞留腐敗し、一般細菌が10,000個を超える施設も増加していると聞いている。

従来から大量にお湯を使用するホテルや病院の他、最近では介護・養護施設、ゴルフ場のクラブハウスやフィットネスクラブの温水プールやジャグジーなど、お湯を使用する施設は増加の一途をたどっている。経済性に「エコ」を売り文句にするのも時代の趨勢である。
快適さを追求した結果、循環浴槽にはレジオネラ菌が増殖し、レジオネラ肺炎の感染事例が増え、入居者の死亡事故が多発した。自治体では対策として、定期的な水質検査、過酸化水素水による薬品洗浄の他に、「水温を60℃にキープする必要がある」との指導がなされている。給湯設備は昔から「メンテナンス」の手を抜けない設備である。

次に「洗濯機」を取り上げよう。洗濯機は節水、省エネ、高機能を歌い文句に改良に改良が重ねられ、付加機能が充実している。当然、付加価値が増大することによって、価格も数倍になっている。
自動洗浄・乾燥は当たり前。ライフスタイルの変化で、夜間洗浄、部屋干しは当たり前。挙句の果て部屋干し用の洗剤まで普及。夫婦そろって何かに追い立てられるように働いている。
洗濯機はそれらの要求を満足させるため、高機能を売り物に、ほとんど使用しない機能まで付け加えられている。
全自動洗濯機は時として、大きなトラブルを引き起こす。水を張り、洗剤、洗濯物をシンクに入れ、セットして出かけることがよくある。ところが帰ってきたら、部屋が水浸し。そればかりか、下の階まで水が漏れている。原因は洗濯パンに付いているホースの差し込み口に洗濯機の排水ホースがきちんと繋がっていないため、排水ホースが外れ、パンの外に排水してしまった事故である。
排水口が詰まり、洗濯パンから溢れて水漏れしてしまうこともある。快適性、利便性を追求すると思わぬしっぺ返しを食らうこともある。

30年以上前に普及した、2槽式の洗濯機は未だにお年寄りに重宝がられている。値段が全自動と比べて安いからだけではない。操作が簡単だからである。当社でも、作業衣、ウエス、軍手等の洗い物にに利用している。洗濯時間は全自動に比べて1/3で済む。ただ、洗濯槽から脱水槽に移すひと手間があるのが煩わしいだけである。このひと手間を惜しむあまりどれだけ高い洗濯機を買い、多くの洗濯時間、洗浄水を費やしているのか。省エネ、節水は本当なのか、疑問である。全自動洗濯機の性能比較データも旧型と新型とのみの比較であり、2槽式の洗濯機との比較データはない。同じ洗濯機でありながら、まったく別の商品として扱っている。

快適性、利便性、経済性を追求した結果、エコがエコでなくなり、時として人間の生命、財産を脅かす事態になることを肝に銘じるべきである。

安全・安心と機能性の両立は難しい。その中に省エネ・節水すべてを満たす水利用は果たして可能なのか?未だ疑問符が付く難しい問題である。

日本は昔から山紫水明、水が豊かな国と言われてきた。各地に「水神様」があり、水を大切にする風潮があった。40年以上のキャリアを持つ配管工が語った言葉
「水は生き物のようだ」
この気持ちがわかるような気がする。

水廻り設備は手入れを怠ることなかれ。手入れをしていれば、水は悪さをしないものだ。
くれぐれもメンテナンスを忘れずに!